- 交流分析という方法の紹介
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日本大学総合科学研究所
日本大学病院麻酔科・ペインクリニック科
小川節郎 教授
何か事が起こると人は様々な反応をします。
いつも人のせいにする人、いつも自分が悪いと考えてしまう人、何とか打開策はないかと考える人などなど。
では自分はいったいどのように反応するのか、自分の反応の仕方はいつも同じで、事を面倒にしてしまう、いつも自分が責任の大部分を背負ってしまう、あるいはいつも同僚や部下、あるいは上司のせいにしてしまう、などなどがあります。
そんな自分をもう少し自分自身で理解できないか、そうすれば何かもう少し「人間関係がスムーズにいくのでは」と考えることが多いのではないでしょうか?
色々な方法についての情報が世の中にはあります。
それぞれ意味のある方法と考えられます。
そのような方法の一つと思っていただいてもいいのですが、自分を良く知り、そして相手の考えかた・行動様式を比較的簡単に理解できるような方法の一つとして、「交流分析」という、誰でもが出来る方法をご紹介したいと思います。
まず自分を知ること。自分と相手の相互関係から考えてみましょう。
交流分析では、人の立場は次の4つ分類されると考えます。
すなわち、
①自分はOKな人間、人もOK、と考える場合、
②自分はOK、でも人はダメ、
③自分はダメな人間であるが、人はOK、
④自分も人もダメ。
人は状況により、あるいは、性格・生育歴からこの4つのどれかの状態にいて生活・行動しています。
ではどのような行動をしているのでしょう。
人が相手と面と向かったときには、次の3つのような精神状態のうちの一つになります。
①親として、
②大人として、
③子供として。
子供としての行動とはどのようなものかから説明すると、例えば、感情に流されて「切れてしまった」ような場合、足を踏まれて「この野郎!!」と怒鳴ってしまった場合、空腹に耐えられず職務中にもかかわらずスナックを食べてしまった場合、テレビの面白い番組に笑いころげている場合などです。
その反対が①の親の状態で、部下に向かって講釈を述べている場合、「こらーっ!!」と怒鳴っている場合、コンビニで店員に大柄な態度をとっている場合、子供に説教をしている場合などです。
②は大人としての対応で、お互いに理性をもって話し合いをしている場合、問題に対して冷静に対応を考えている場合などです。
以上の観点が交流分析の原点ですが、さて、人を理解し、自分をコントロールするにはどうするのでしょうか。
私は医師なので、診察室でのある場面を再現してみましょう。
まだ30歳代である若い医師の診察室に、50歳代のある会社の部長さんが入ってきました。
その方は診察室でも、会社での立場そのままに大変横柄な口ぶりで、「肩が痛くてしょうがないんだよ! 注射ですぐ直してくれないかね」と注文です。
すなわちこの部長さんの心の状態は「親」の立場です。
親から見て年下の医師は「子供」の立場ととらえていたと思われます。
この時、医師が頭にきて、「何言ってるんだ!。注射1本で治るはずがないでしょ!! ここはそんなことはできないから、他の病院へいっていいよ!」かなり乱暴な言い方で対応したとします。
この時この医師も実は「親」としての対応をしたのです。
「医者である俺に対してなんという口のききかただ!!」と自分の優越性を保とうとしている状態です。
すなわちこの状況では、お互いの心は通じ合わないことになってしまいます。
ではどうしたらよかったか。
もしこの医師が交流分析的な対応が出来れば何とかなったような気がします。
例えば「ああ、この患者さんは私の顔を見て、この医師は自分より格下な男で、医師と言っても若造と思っているんだな」、あるいは「自分の痛みはお前みたいな若い医師になんかにわかってたまるか!と思っていのかもしれない」と思うことができれば、まず、相手の「親」としての感情を受け入れて、「ああそうですか。大変痛むんですね。大変ですね」と受ければ、次の段階に行けます。
そして医学的な診察を行い、説明をすることによって、お互いが「大人」の状況へ持って行くことが出来ます。
結局、医学的には「注射1本ではすぐ直らないこと、検査が必要で、その結果によって適切な治療を適応すべきこと」を理解していただくという方向に向かうことが理想的と思われます。
すなわち自分の心理状態を良く内省し、相手の立場を考慮することでかなり良好な人と人との交流が可能にあると思われます。
「なんだ、結局、人の立場に立って行動しろと言うこれまで言い古されたやり方ではないか」と思われるかもしれません。
その通りですが、相手の立場の考え方、自分の心の在り方を比較的簡単に思慮できる方策として、交流分析の手法をお勧めする次第です。
【専門分野】麻酔科、痛みの制御に関する基礎的・臨床的研究
麻酔科医として勤務後、講師、助教授、教授と歴任し
駿河台日本大学病院院長(平成23年10月まで)
現在は日本大学総合科学研究所教授
【その他経歴】
日本ペインクリニック学会 代表理事
日本慢性疼痛学会 理事長
日本麻酔科学会 名誉会員
日本疼痛学会 理事
日本レーザー治療学会 理事
日本臨床麻酔学会 理事