意思決定理論
意思決定理論は、特性因子理論のように個人の特性や職業での必要要件に焦点をあてた考え方ではなく、すべての事に対して選択をしていく意思決定そのものに焦点を当てた考え方です。
人生は進学や就職、結婚、異動、転職など様々なシーンで選択を迫られている訳ですが、意思決定までのプロセスや意思決定スタイルは様々な形になります。
ジェラット(Harry B.Gellat)は、1960年代から意思決定に関する研究をアメリカで行ってきた人物で、「合理的な意思決定モデル」や「積極的不確実性」が主要理論として有名です。
ジェラットは、自身の研究初期においては理性的で合理的な意思決定の重要性を説いていましたが、後半では初期の理論を発展させる形で、合理性よりも右脳を使った直感などの非合理的な側面を意識した意思決定の重要性に言及しました。
ジェラットの合理的な意思決定モデル(連続的意思決定モデル)
ジェラットは研究初期に合理的な意思決定モデルを提唱します。
まず、意思決定を成立させる基本要件として、
1.すべての決定には決定を行う個人が存在していること、2.情報に基づく2つ以上の選択肢の中から選択して行動しなければならないこと、という2点を挙げています。
そして、その意思決定を行うプロセスは下記の3段階のステップにわけて行われていると述べています。
3段階のシステム
①予測システム
可能性のある選択肢の予測を行い、選択肢それぞれがもたらす結果がどの程度起こり得るのかという可能性を判断します。
②評価システム
各選択肢の予測される結果がどれぐらい自分にとって望ましいかを判断します。
どういう結果が望ましいかは人それぞれになりますが、「自分の価値観にあっているか」「自分の興味・関心にあっているか」などを評価します。
この段階で自身が認識していなかった自分の性格や価値観が見えてくることがあります。
③決定システム
これまでの2つのステップを経て「決定基準」ができあがります。
可能な選択肢を目的や目標に照らし合わせて評価し、決定基準に合っているものを選択することになります。
ジェラットは、上記の3ステップを繰り返しながら意思決定がされるとしています。
ジェラットは、意思決定プロセスを行うにあたり「すべての選択肢に気づくこと」、「十分な情報を得ること」、「情報の関連性と信頼性を検討すること」、「価値システムからそれぞれの結果を評価すること」が重要であるとしています。
採択された決定には、探索的決定と最終的決定の2つがあり、試験的決定は最終的決定が下される前に繰り返される、いずれも目的・目標の吟味や情報の収集にフィードバックされるサイクルを構成すると考えられています。
ジェラットの意思決定理論は前期理論とされており、その後の研究や社会的背景が不確実なものから、意思決定理論を補う後期理論として「積極的不確実性」が提唱されています。
ジェラットの積極的不確実性
ジェラットは、1980年代後半は労働市場の変化が激しい時代であり、収集した情報が必ずしも正しいものであるとは限らない、人間が収集できる情報量には限界がある、取得した情報は受け手の解釈や考えにより変化があるという事に触れ、意思決定には非合理的な側面(心の声)も重要であると考えました。
現代は色々と複雑化しており変化の多い時代だからこそ、不確実性を積極的に捉えて柔軟になることが大切と唱えました。
依然として意思決定においては、情報収集や選択肢の絞り込みは欠かせない、段階を経て意思決定をする事に変わりはありませんが、その際に合理的な側面だけを考えるのではなく、直感や夢、創造性といった非合理的な側面がむしろ大切になってくるという考えになります。
ジェラットが掲示する意思決定の新たな要件として必要としていることは、①得られる情報は限られていて、情報は変化し、主観的に認知されたものである(主観的可能性)であるということと、②意思決定は、目標に近づくと同時に、目標を創造する過程でもある(探索的結果)という2点になります。
ジェラットは、研究当初は意思決定は合理的になされるべきという立場をとっていましたが、世の中の不確実性から、不確実な未来に対しても積極的に捉え、肯定的に認知し、ありのままを受容することの重要性を述べています。
情報収集と選択肢の絞り込みは変わらず重要ですが、社会の不確実さを積極的に受け意思決定するためには、客観的で合理的なストラテジーだけでなく、主観的で直観的なストラテジーを統合して受け入れた上で用いるようにしなければならないと考えました。
積極的不確実性による柔軟な意志決定は、より良い意思決定、効果的な意思決定のために是非取り入れたい考え方なのではないでしょうか。
積極的不確実性の理論は、過去思考のカウンセリングとは異なり、未来志向の創造的カウンセリングであると位置づけ、左脳ばかりではなく右脳(感覚的、直感的)も使う全能型アプローチによる意思決定を提唱しています。