自己開示と自己呈示
人間関係を形成・調整するコミュニケーションに、自己開示と自己呈示があります。
自己開示
自己開示は、1971年、臨床心理学者シドニー・ジュラード (Sydney Jourard) によってはじめて用いられました。
自己開示とは、自分に関するプライベートな情報を相手に話すことになります。
自分の生い立ちや趣味を話題にしたり、自らの過去の失敗を打ち明けること、自分の思いや意見を正直に話す等といった事が自己開示の例になります。
つまり、自己開示とは、他者に対して自己のことに関する本当の情報を主に言語的コミュニケーションによって伝達することになります。
ただし、何でもかんでもいつでもどこでも開示すれば良いというわけではありません。
開示するには、開示する頻度や時間的な長さといった量的な側面、深さといった内面性の質的な側面、開示者にとって肯定的か否定的かといった評価的側面の内容を検討する必要があります。
同様に、過去の自己なのか、現在の自己なのか、未来の自己なのかといった、開示される自己の時期という時系列の視点も考えるべきです。
さらに、現実の自己の姿なのか、理想とする自己の姿、あるべき自己の姿なのかということや、言及されている姿が公的な自己の姿なのか私的な自己の姿なのか、他者から見られている自己の姿なのか、自分の見つめる自己の姿なのかといった、関係の進展にともなった自己開示が必要となります。
あまり親しくもない相手に内面的過ぎる話しをしたり、タイミングを間違えるといった不適切な自己開示をすると、受け手側は準備ができていないので「非常識な人」といった大きなマイナスのイメージを与えてしまう事になります。
自己開示機能は個人的機能と対人的機能の2つがあります。
個人的機能には、①悩みや苦しみ、不安、不満、葛藤といった、鬱積したネガティブ感情を吐き出すことによって感情浄化(カタルシス)が生じるという感情浄化機能と、②事柄に対する態度や意見を尋ねられ、話しているうちに気持ちが整理され明確になるという自己明確化機能と、③他者からの評価、他者の能力や意見を聴くことで、自分の能力や意見の社会的妥当性がわかる社会的妥当性化機能があります。
対人的機能には、①二者関係の発展機能というものがあり、以下の様な事があてはまります。
相手に対して信頼している事や好意を持っているなど隠していた自分の事を打ち明ける。
相手は開示者の事を肯定的に認知し、好感を覚える。
相手に生じた好感が開示者に対する好意的な言動となって表れる。
また、隠していた・秘密にしていたことは、社会的・心理的に価値あるものにあたる。
返報性規範といわれる、自己開示をされた受け手も同程度の自己開示を行う。
また、②自分が「自己開示を行う相手はあなただけです」という事を強調することによって、相手が自分に対して抱く印象や二者関係の質をコントロールできる社会コントロール機能や、③二者間には、その二者に固有の親密さレベルがある。アイ・コンタクトや微笑といったポジティブな行動の増加・減少のしすぎは親密さのレベルが均衡を失う、均衡を回復するために自己開示の量や質を減少・増加させるという親密感の調整機能があります。
自己呈示
自己呈示とは、人間は常に本来の自分を他者に見せているわけではなく、自分にとって望ましい印象を与えようとして意図的に振る舞う行為のことをいいます。
他者に対して特定の印象を与えるために、自己に関連する情報を隠したり、飾ったり、誇張したり、歪曲したり、偽ったり、タテマエで固めたり、演技したりして調節を行って、主に言語的コミュニケーションによって伝達をする行為になります。
特徴機能は3つあり、①否定的印象の改善、特定の肯定的印象を与えるなどの行為により、地位の獲得や他者からの報酬の獲得と損失の回避といった事や、好意的に評価され自尊心を高揚させるなどの自尊心の高揚・維持や、自己概念と一致した行動をとるアイデンティティの確立といった「行為者の印象操作を意図」した特徴機能と、②行為者の言動は本心から出たものではなく演技であるという「真意と異なる演技」という特徴機能、③相手は行為者に対する制裁や罰、あるいは報酬や賞を統制する力を持っているという「相手は制裁源あるいは報酬源」という特徴機能になります。
自己呈示は、不当な行為である側面をもち、演技を見破られた場合に否定的な評価を受けるリスクを伴う行為であることから、実行の可能性が大きくなる要因を考えてから促進、あるいは抑制するべきであるとされています。
実行の可能性が大きくなる要因とは、①獲得できる報酬や賞の大きさ、回避できる制裁や罰の大きさといった「誘因の大きさ」、②自己呈示が成功するという期待の確率といった「成功の期待確率」、③不当な行為などをどの程度正当化できるかといった「不当性低減の大きさ」になります。
自己呈示には、①防衛的自己呈示と②主張的自己呈示の2種類があります。
①防衛的自己呈示とは、1.自分と否定的な結果との関係を弱めて責任を回避する行為の「弁解」、2.部分的に責任を認めるが、否定的な結果を過小評価させる行為の「正当化」、3.自分の行為が非難に値すると認め、責任をとると謝るふりをする行為の「謝罪」、4.否定的な評価を受ける恐れがあるとき、前もってハンディキャップがあるという行為、実際にハンディキャップを作り出す行為の「セルフ・ハンディキャッピング」、5.否定的行動が偶然的だと思わせるために、わざと社会的に望ましいふるまいをする行為の「社会志向的行動」があります。
これに対し、1.相手の長所や美点を強調して相手の自尊心をくすぐる「他者高揚」、相手が持っている意見や考えについて賛成・同意を示す行為の「意見同調」、自己の特性を望ましい方向に誇張して示す「自己描写」、相手の幸せを願っていると暗に示す行為の「親切な行為」。これらすべては、相手に好かれて認めてもらえることを目的とした機嫌をとるような愛想の行為で「取り入り」といわれます。
2.自分に『能力・魅力・影響力』などが実際の自分以上にあるように見せかけようとする行為を「自己宣伝」といいます。
3.自分が社会的・規範的に価値のある人間であるかのように見せかけ、他者を納得させようとする行為を「示範」といいます。
4.自分が相手に対して何らかの強制(賞罰の付与)をするだけの権力・権限・暴力があること、危険な人物であることを知らしめようとする行為を「威嚇」といいます。
5.自分がかわいそうな存在であること(被害者であること)をアピールして同情・協力を得ようとする行為を「哀願」といいます。
これらが②主張的自己呈示になります。
ジョハリの窓
ジョハリの窓(ジョハリのまど、英語: Johari window)とは、自分をどのように公開ないし隠蔽するかという、コミュニケーションにおける自己の公開とコミュニケーションの円滑な進め方を考えるために提案された考え方で、自己分析に使用する心理学モデルの一つです。
自分自身が見た自己と、他者から見た自己の情報を分析することで4つに区分して自己を理解するというものです。
以下が4つの区分となります。
①開放領域(開放の窓)と呼ばれ、自分の分析と他者からの分析が共通しており、「自分自身も知っていて他者も知っている自分の性質」(開放)。この窓の項目が多い場合、自分の内面や能力などを他者が分かるように表に出している(自己開示している)傾向が強いと言えます。逆にこの窓が小さいと、他者から見たときに「よくわからない人」のように見えているということになります。
②隠蔽領域(秘密の窓)と呼ばれ、「自分は知っているが他者は知らない自分の性質」(秘密)。この窓の項目が多い場合、内に秘めている部分が多く、自己開示をしていない、あるいはできていないと考えられます。
③盲点領域(盲点の窓)と呼ばれ、「自分は知らないが他者は知っている自分の性質」(盲点)。この窓の項目が多い場合は、自分自身の分析ができていない、あるいは自分が気付いていない部分が多いことを意味します。自分への理解を深めることに役立てることができます。自分が知らなかった自分の性質を理解し受け入れていくことで、この項目は開放領域(開放の窓)に移っていきます。
④未知領域(未知の窓)と呼ばれ、「自分も他者も気付いていない、あるいはまだ開発されていない性質」(未知)。新しいことに挑戦したりする中で気が付く、あるいは新たに開発されていく可能性があります。開発すれば、開放領域(開放の窓)、隠蔽領域(秘密の窓)、盲点領域(盲点の窓)のいずれかに新たに項目が加わることになるでしょう。
他者とのコミュニケーションにおいて自分自身をどれだけ表現しているか、という視点で現在の自分の姿を理解することができます。
私たちが社会で成長していくためには、積極的に自己を開発していく必要があります。
そのためにはまず、自分を知ることです。
自分を知ることで自己開発をする手法として有効なのが、この「ジョハリの窓」です。